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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)333号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人重田光明、同人見福松の上告趣意第一点、第七点(ロ)について。

しかし、犯行の時刻は本件犯罪については罪となるべき事実でもなく、また、法律上刑の加重減免の原由たる事実でもないこと明らかであるから、これを判示しなかったからといって、原判決には所論のような審理不尽又は判断遺脱の違法は存しない。論旨は理由がない。

同第二点について。

しかし、所論の原判示事実の認定は原判決挙示の証拠就中原審公廷における被告人の供述に照らして肯認することができ、その間反経験則の違法もない。されば、原判決には所論のように証拠によらないで事実を認定した違法は毛頭存しない。論旨は結局事実審たる原裁判所の裁量権内でした事実認定を非難するに帰し上告適法の理由とならぬ。

同第三点について。

原判決は被告人の携帯していた拳銃が十九年式か十四年式かについては何等認定判示をしていないこと判文上明らかであるから、原判決が十九年式と判断したことを前提とする所論は判示にそわない事実を独断するものでとるをえないのみならず、かかる事実は本件では罪となるべき事実でなく、また、刑の量定にも影響のないこと明らかなところである。さればこれを判示しなかったからといって、原判決には所論のように審理不尽乃至理由不備の違法ありとはいえない。論旨は理由がない。

同第四点について。

しかし、原判決の挙示する証拠特に被告人の原審公廷における供述として、「犯人連行中最早や拳銃を使用する必要のないことを認めてズボンの後ポケットに入れ様と思ったところ拳銃の安全装置が土井方で威嚇発射した時直ぐに完全に掛けたつもりでおったのに半分しかかかっていないことに気がつきこれは危いと思った」旨述べている。この供述によれば、安全装置を半分しかかけないでいて、完全にかけたように思って拳銃を携行していたことが認められるのであって、この一事だけでも被告人に拳銃の携帯についての業務上の注意を怠ったものといえるのである。しかのみならず、同公廷において被告人は更に、「右片手で銃口を前に向けた侭安全装置をかけようとした…中根巡査は私より六尺位離れて先きを道路の右側を歩いていました…私も道路の右側を…」と供述しているのである。この供述によれば、被告人は安全装置の半分しかかかっていないことに気づいていて、しかも、同僚が自分の近くの前方を歩いて行くのを知りながら、なお、銃口を前方に向けた侭で拳銃の安全装置をかけようとしたことが明認でき、この被告人の所為は拳銃操作に関する注意を怠ったものといわなければならぬ。蓋し拳銃の操作殊に安全装置をかけようとするときには当然に銃口を空中又は地面に向けてする等事故の発生を未然に防止する義務のあることは拳銃を業務上携帯する者に課せられている注意義務であること多言を要しないところであるからである。されば、仮りに、所論のように被告人が左手にもっていた捕縄を一事はなち、両手で拳銃の安全装置をすることが被告人の職貴上等からできなかったとしても被告人に本件拳銃の暴発に因る死傷について業務上の過失がないとはいえない筋合であるといわなければならぬ。原判決はその説示に適切を欠くうらみなしとしないが結局は正当であって論旨は理由がない。

同第五点について。

しかし所論の原判示事実の認定は原判決挙示の証拠によってこれを肯認しえられ、その間反経験則等の違法はなく、従って原判決には所論のような審理不尽、理由齟齬の違法はない。所論は結局原審の裁量権内で適法にした証拠の取捨乃至事実認定を非難するに帰し上告適法の理由とならぬ。

同第六点について。

論旨に縷述するところは原判決が被告人に刑の執行猶予を言渡さなかったのを非難するに帰し、上告適法の理由とならぬ。

同第七点の(イ)(ハ)について。

論旨(イ)に指摘する本件公判請求書中本件発生の日時として昭和二二年九月一五日とあるのは昭和二一年九月一五日の誤記と認むべきことは、記録上明らかな右請求書の日附も、右請求書が東京刑事地方裁判所に受附けられた日附も、ともに、昭和二二年七月一四日であることから推して明白であるし、なお、原審公廷では検事は本件発生の日時を昭和二一年九月一五日と判示している第一審判決書理由記載の犯罪事実のとおりと公訴事実の陳述をしたことが記録上明認されるから、公判請求書中の所論日附の誤記は原審公廷において明確に訂正されているものといえるのである。されば、原判決には所論のように不法に公訴を受理した違法あるものとはいえない。

論旨(ハ)は原審は審判を受けない事件について判決をし、受けた事件について判決をしない違法をしたというのであるが、公訴事実と原判示事実とはその基礎たる事実(被告人が業務上の過失に因って拳銃を暴発し加藤定吉を即死させ中根長二郎を傷害した事実)は同一であるから、原判決には所論の違法はない。

同第八点について。

原判決は所論の加藤栄子及び中根長二郎に対する野村池直の各聴取書を証拠として採用していないのであるし、仮りに所論のように右聴取書は証拠として取調ぶべきでないとしても、これを取調べたからといって、その取調べの際に適法になされた他の証拠の取調べまでも当然に違法無効となるものとはいえない。されば所論の鑑定書、答申書を証拠として判示事実を認定したからといって、原判決には所論のように証拠とならないものを判示事実の認定に供した違法あるものとはいえない。論旨は理由がない。

よって旧刑訴四四六条に従い全裁判官一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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